第2次世界大戦後にシベリアに抑留された祖父は戦後、その体験を語ろうとしなかった。ただ、中学生になった孫娘が油絵を始めたのを機に、自らも絵筆を取り、抑留の記憶を描き残し始めた。
戦後80年の夏。亡き祖父と、画家になった孫の「2人展」が、香川県さぬき市で開かれている。
漆黒の夜空に満月が浮かぶ。空の下に月光でわずかに照らされた白樺(しらかば)林との間を隔てるのは有刺鉄線――。シベリアに抑留された旧日本兵捕虜の収容所をモチーフに、さぬき市在住の画家、千田豊実(とよみ)さん(43)が描いた新作のアクリル画だ。
「何年かかっても癒やされない、有刺鉄線にからまる抑留体験者の思いを表現しました」
祖父の故・川田一一(かずいち)さんが残したシベリア抑留の体験画18点と、自身の7点を並べた2人展の会場で、千田さんはこう語った。
さぬき市出身の川田さんは地…